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現行法の「児童ポルノ」の定義は、「猥褻法」の法文を手本としたと聞き及びます。そのため、「虐待」の有無が問われるのではなく、「猥褻」か否かという曖昧な基準が「解釈」として使用されていると聞きます。まず順序として、「猥褻法」から引用した文は、本来の立法趣旨を運用面で損なうため、書き改められるべきだと私たちは考えます。
また、単純所持の危険性は、児童ポルノ製造罪によって評価し尽くされているとも考えられます。児童ポルノを製造した場合、その製造者若しくは第三者がそのポルノを「所持」することは当然に法は予想している筈です。その製造者を製造罪で処罰し、あるいは、流通させた場合に頒布罪などで処罰すればよく、それには現行法の枠で十分ではないでしょうか。結局、単純所持を処罰する必要性は相対的に低いと言わざるを得ません。
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「単純所持」が規制対象となった場合、国民への過度のプライバシー侵害(私領域への介入)、冤罪の多発が懸念されます。
「単純所持規制」による国民のプライバシー侵害への懸念は国際的にも共有されていると私たちは考えます。
『サイバー犯罪条約』では、児童ポルノの単純所持に関する条項について批准を留保することを認めています。『子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーに関する子どもの権利条約の選択議定書』では単純所持の規制について、まったく言及していません。これらはその証左です。
今回の改正案においては、罰則を設けないこととされていますが、これは将来における単純所持の犯罪化を前提とした過渡的な措置です。将来における犯罪化を前提とした議論には私たちは危惧と疑問を感じます。
3-3
「単純に所持する」のは、下記のような場合も想定できます。
ⅰ 当人が存在を知らずに児童ポルノを所持していた場合(書籍などの実体物の他、パソコンのハードディスク内など。ハードディスクへは外部から画像ファイルを入れることも可能です)。
ⅱ 当人が被写体の人物を児童とは知らずに所持していた場合(実体物、電磁記憶)。
ⅲ 親族によって撮影された子どもの裸(実体物、電磁記憶)。
ⅳ 現行法下で合法的に流通している、子どもの裸の実写画像を含む作品(書籍、映画など)。
たとえば、特定政治家へのスキャンダルを捏造したいと考えた場合、ⅰを利用することは充分にありえます。
一般に、「児童ポルノ」規制論、インターネット規制論は、かなり乱暴な警察権限拡大論に繋がりやすい傾向があります。運用面での歯止めを厳密にかけなければ、「個人情報の漏洩」や「恣意的な情報操作」による重大な人権侵害をもたらす悪法になってしまう恐れがあります〔註3〕。
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また、「単純所持罪」と同じく、「単純製造罪」の制定には、以下の問題点があります。
ⅰ 警察による国民のプライバシー(私領域)への過度の介入を招き、多くの市民的自由が損なわれる。
ⅱ 曖昧かつ過度に包括的な内容による法規制は、冤罪と別件逮捕の温床となる恐れがある。
「未成年者の意思に反して撮影」した場合や、「対価を供与して撮影に応じさせた」場合、さらに「頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列」するような、「明らかに性的商業的搾取」の目的で撮影をするようなケースのみが正しく裁かれるべきであり、そのようなケースはわざわざ単純製造罪を用いなくとも、現行法のままで十分に処罰が可能です。
さらに言えば、児童買春・児童ポルノ禁止法の枠組みの中だけでなくとも、刑法の「強要罪」や「脅迫罪」、「淫行条例」違反や「児童福祉法違反」により摘発することも可能です。
結局、このように多くの矛盾や問題点を抱えたまま、危険極まりない「単純製造罪」を新規立法しなくてはならない十分な合理性があるとは、私たちには思えません。