中国が人民元の国際化に乗り出した。アジアの通貨・金融に詳しい愛知淑徳大学の真田幸光教授に中国の狙いや今後の展開を聞いた。真田教授は「中国はゆっくりとだが国益をかけて着実に、東南アジアや韓国に人民元経済圏を広げていこう」と予測した。
使われれば国際通貨
――2008年末、中国政府は東南アジア諸国連合(ASEAN)や香港などとの取引に関し、限定的だが人民元建てで決済することを初めて認めた。
「中国は東南アジアという弱い通貨の国々で人民元の国際化を始めたということだ。一方、ドルやユーロ、日本円との競合は当面避けるだろう。今の時点で強い通貨の世界に人民元が流通すれば、人民元に対するアタックが起きかねないからだ。だから、当分の間、人民元は日本などからは『閉じた通貨』に見え続ける。半面、弱い通貨の国からは『国際的な通貨』に成長したと映るだろう」。
――人民元はいわゆるハードカレンシーではない。それでも国外で使われるのか。
「逆説的な言い方だが、ある通貨が世界で使われるようになるとハードカレンシーと呼ばれるのだ。もちろん、ハードカレンシーと認められるに必要な条件はある。安定性、交換性、流動性だ。すでに香港では人民元が流通している。ほんの少し前までは、香港の商人は人民元など受け取らなかった。が、今や人民元は、『米ドルにペッグした香港ドルと比べても安定性は低くはない』との評価を得た。今後、香港や東南アジアでの決済を公式に認め、交換性を高めてやれば、人民元はますます使われるようになる。そして、使われるほどに流動性が増す。通貨は『使われれば勝ち』なのだ」。
華僑の多い東南アジアから
「東南アジアを人民元デビューの舞台に選んだのは華僑が経済力を持つため中国が影響力を発揮しやすいこともあるのだろう。専門家の間では、事実上の人民元建て決済がすでに始まっているとささやかれている。それは以下の手法だ。東南アジア在住の華僑の多くは中国国内の銀行に人民元の口座を持つ。彼らが中国に何かを輸出した際、代金はこの口座に人民元で振り込ませる。その分のドルは中国の子会社が本社に送る……」。
ドル支配を崩すオセロ
――人民元の国際化で中国が得るものは何か。
「国威発揚もある。が、外交、安全保障面などの実利も大きい。中国と東南アジアとの取引に加え、次第に東南アジアの国々の間での取引にも人民元が決済通貨として使われるようになっていこう。こうなれば、中国政府は自国とは関係なくとも、人民元決済でなされる世界のすべての取引をモニタリングできるようになる。これまでは米国が世界中のドル決済取引をモニタリングし、テロ国家やテロ組織の怪しい取引を監視してきた。これからは中国もそうした力を持つ。もちろん人民元が絡む取引を米国にモニタリングされなくもなる」。
「中国はオセロゲームのように人民元経済圏を広げていくだろう。東南アジアに続き、巨額の援助を実施しているアフリカ諸国などにもいずれは人民元を使うよう求めるだろう。ただ、中国は中国人らしく、急ぎはしないと思う。米国との摩擦を避けるためだ。旧ソ連時代に『共産圏の中での国際通貨』ルーブルを運営していたロシアが最近、通貨の復興を目指している。中国はとりあえずルーブルを表に立て米国からの風圧を避ける戦法もとるかもしれない」。
韓国も人民元決済へ?
――「韓国も人民元決済を始める可能性がある」と予測しているが(「ウォン防衛に必死の韓国=2008年12月11日参照)。
「昨年12月、韓国銀行は中国人民銀行との間で通貨スワップ枠を広げた。増加分に関しては、通貨は米ドルではなく人民元・韓国ウォンを使うとの約束だ。今後、韓国銀行がスワップ協定を発動し人民元を借りる際には、韓国政府が中国国内の銀行に人民元口座を開く必要がある」。
「さらに、両国間の貿易金融で外貨が足りなければスワップされた人民元が決済に使われていくことも十分ありうる。中国が最大の貿易相手である韓国にとって、人民元の使い勝手は悪くない」。
「『韓国は外貨準備の一部も人民元で持つ』という情報まで流れ始めた。韓国銀行が非公式に流してしているフシがある。『東南アジア各国も人民元を外貨準備に組み込むようだから』との言い訳めいた理由も、この情報にはくっ付いている。予めリークすることで韓国内外の反応を見ようということか、あるいは納得させたいということなのかもしれない」。
通貨でも米国離れ
――中国がドル体制を揺さぶる中で韓国が人民元経済圏に入り込んで行くとしたら、米国はどう見るのだろうか。韓国はすでに外交的にも軍事的にも米国から離れ始めている(「韓国の反米牛肉暴動と中国」=2008年7月2日参照)。
「米国からすれば裏切り行為に写るだろう。世界も、韓国の米国離れが通貨でも起きた、と見なすだろう。ブッシュ前政権は韓国の米国離れを放置はしなかった。しかし、オバマ新政権は、やや、だが、現実を認める方向に行くかもしれない」。
――中国との通貨スワップ増枠は、今回の通貨危機の中で国際通貨基金(IMF)の救済を避けるために韓国側から中国に依頼したものだ。米中間のそんな微妙な立ち位置に自らを追い込むぐらいなら、素直にIMFに救済を求める手もあったのではないか。外交全般で見ても、韓国はスワップ枠を提供する日米中いずれの国とも、小さな揉めごとさえ起こせなくなっている。
「韓国はとにかくIMFへ行くのが嫌だったのだろう。今は、IMFに行かずにいかに危機を乗り切るか、だけに神経が行っている。前回の危機の際(1997年)、私はソウルに駐在していた。98年初め、あるホテルのレストランで韓国政府高官がIMFの担当者に異常なほど低姿勢で対応しているのを目の当たりにした。二度とIMFの世話になりたくはない、という韓国人の思いは分からないでもない」。
――私も韓国の財務相経験者から「当時、急遽向かった米国で、IMFの担当者から緊急融資の条件の紙をぽんと投げられた」という苦い記憶を聞かされたことがある。「メキシコ用」と印刷された部分を斜線で消し、手書きで「韓国用」と書き直してあったことや、ポロシャツを着た担当者が不機嫌で、休みの日に楽しんでいたゴルフから呼び出されたように見えたことも。
2009年1月21日水曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿