2009年1月10日土曜日

マスコミも大変らしい

――では、その「夢のような時代」は、いつ頃曲がり角を迎えたのでしょうか。 河内 転機は、バブル崩壊の頃ですね。現実には、高度成長が終わった80年代に兆候が見えてきた ように思います。広告が、90年代から急落したんです。バブルのピーク時に比べると、半分ぐらいに まで落ち込んでいる。不景気が原因であれば、景気が回復すれば広告も戻るはずなのですが、 現実にはそうではない。 地域でシェアが高い新聞の多くが、広告収入で前年割れの状態が続いています。これは、広告主が 「新聞から他媒体に引っ越しちゃった」という現象です。「広告を出したいが、出せない」 という訳ではない。 さらに言うと、2年ほど前に、日経の広告収入が読売に迫るぐらいの勢いで伸びてきたんです。 そうなると広告営業上、「300万部と1000万部の違いは何なのか」という話になってきます。 つまり、「部数、シェアー=広告単価」という黄金律が消滅してしまったんです。 ――それでは、販売収入が落ち込んでいる理由は何でしょうか。 河内 やはり、「新聞離れ」でしょうね。若い人は新聞を読まないし、お年寄りは読んでも 購読していない。図書館や公民館なんかで読んでいるんですね。 この原因は、携帯電話の普及にあるのではないかと思います。今、何だかんだ言って、携帯代金は、 1世帯あたり2万円はかかるでしょう。その反面、「家庭で情報収集のためにいくら使いますか」 という問いには、「2万円以下」という答えが圧倒的に多い。そうなると、減らされる対象は、 月4000円の新聞とNHKにならざるを得ない。世帯別の購読率が下がって、販売収入に響いて います。一般家庭だけでみると、購読率は50%を切っている、というデータもあります。 ――では、こうした状況に対する有効な手立てはあるのでしょうか。 河内 米国の地方に行くと、プリンティング・デポ(printing depo、小規模印刷所)というものが あって、各社が共同で印刷機を使っています。「各社が出来るだけ遅くニュースを入れようとして、 印刷機の取り合いが起こるのではないか」という人もいますが、速報性については、「テレビを 見てもらえばいい」という考え方です。 日本でも同様の動きが起こっていて、販売激戦区の千葉県で、「朝日新聞を読売新聞の工場で 印刷する」みたいなことが行われつつある。昔では考えられなかったことです。 私は、「出版社になりなさい」と言っているんです。一度校了すれば、印刷会社が印刷して、 別の会社が流通を担当する。ところが、新聞社は原料を買ってくるところから売るまで、全部 やっている。「部数至上主義」時代は上手くいっていたのですが、今後は紙の共同購入まで 行くのではないかと思います。さらに、新聞社ごとに配達ルートがあるのがおかしいんです。 これを共通化すれば、数百億円単位で合理化できるのではないでしょうか。もっとも共同販売に しますと、押し紙はできませんから販売部数は相当減りますよ。 -続きます-
3 :やるっきゃ騎士φ ★:2009/01/10(土) 16:41:40 ID:???
-続きです- [3/4] ■新聞社のビジネスモデルは凋落している百貨店と同じ ――傘下に持っているテレビ局が支えてくれるから大丈夫、という考え方もありますね。テレビ局との 関係についてはいかがでしょうか。 河内 確かに2年くらい前までは、「新聞に比べれば、テレビ局は持ちこたえられるだろう」という 考え方もあった。ただ、テレビも広告費の落ち込みが激しくて、赤字に転落するキー局も出て きました。新聞とテレビで「老老介護」をしても仕方がありませんよね。テレビ局ではプロパー社員も 高齢化しているし、ナショナリズムもあるから今後、新聞が支配してゆくのは難しくなるのでは ないでしょうか。 ただ、ある地域の新聞社には100人、系列のテレビ局には50人の記者がいるとして、 「ビデオジャーナリスト」といった職業も一般化していることですし、仕事を共通化するという 合理化策としては、あり得るのではないでしょうか。 ――ネットとの関わりについてはいかがでしょうか。各社とも苦戦しているようですが、収益源に する方法はありますか。 河内 新聞社が大挙してネットに押しかけても、ポータルサイト、ヤフー、グーグルといった プラットフォームに儲けられるだけですよ。ストレートニュースのように、いったん消費者に無料に したものは、後から「お金くれ」と言っても無理です。そこで、新聞社にしかない情報を発信する 有料の専門サイトを作れば良いのではないでしょうか。ロング・テールの考え方です。 例えば、農水省のクラブには大量の資料が配布されて、10以上の業界紙でも、その内容を全部は 紹介し切れていない。ネットならば、業界紙よりも詳しい情報を発信できるはずです。 「じゃがいも新聞」「まぐろ新聞」とか。細かい、ニッチな情報を掲載するサイトをつくって 有料で読んでもらえるようにすれば、可能性はあるのではないでしょうか。「お金を払ってもらえる コンテンツ」は、存在するはずです。 新聞社は、凋落しているデパートのビジネスモデル。「すべてがそこにある」ということは 「読みたいものが何もない」になりかねない。オール・イン・ワンの新聞の使命は終わったことを 認識して、金になるニッチな細かい情報を配信するような形で出直すべきです。 ――最後に、各社の取り組みをどう見ていますか。 河内 朝日は半期ベースで100億円の営業赤字(連結)を計上しました。社内の緊張感は大変なもので、 「社内の引き締めのためにやったのか」と邪推するほどです。ただ内部留保が2000億円ある朝日だから 赤字が出しやすかった、という面はあると思います。 毎日・産経も、08年9月中間期には、それぞれ26億円、11億円(いずれも単体ベース)の営業赤字を 計上しています。 特に毎日新聞について言えば、08年6月に社長が交代したばかりで、「交代時には思い切ったことが しやすい」ということがあります。これを機会に、ウミを出し切りたい、という思いもあるのでは ないでしょうか。 -続きます-
4 :やるっきゃ騎士φ ★:2009/01/10(土) 16:41:49 ID:???
-続きです- [4/4] 朝日は、今回の赤字計上で、読売、日経との(かつては「ANY」とも呼ばれた)業務連携に弾みが つくのではないでしょうか。具体的には、「原料の共同購入・印刷工程、販売流通の共有化」が 進むでしょう。「身を削ぐような合理化」で、3社合わせれば、1000億円台の経費削減ができる はずです。 朝日は、出版本部を別会社にしたのはえらいですよね。私は、毎日のメディア局を別会社にしようと 考えていたのですが、中々上手くいかなかった。別会社になると、競争に放り込まれるので、必死に なりますよね。動きが速くなるし、思い切った決断もできます。 新聞という仕事は「印刷工場を持っていて、販売店を持っていないとダメだ」ということでは ありません。新聞社の本分は「的確にニュースを取材し、意味づけをして送る」ということに 尽きるのであって、別に「(活版印刷を発明したとされる)グーテンベルグと心中しないといけない」 とは思いません。 問題は、上が持っている危機感を、社全体で共有していないこと。若い人は、構造不況業種と 思っているから「危機慣れ」している。なかなか「自分の問題として」経営問題を考えようと しませんね。 <メモ:止まらない広告・販売収入の落ち込み> 日本ABC協会の調査によると、07年4月の段階では811万部あった朝日新聞の部数は08年4月には 6万部減少して805万部。毎日新聞は400万部が10万部も落ち込み、390万部になり、ついに 「400万部割れ」となった。読売・日経・産経の3社は、ほぼ横ばいだ。 一方、07年の新聞広告費(電通調べ)は9462億円で、06年に比べて5.2%落ち込んでいる。 マス4媒体(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)の広告費は3兆5699億円で、前年比2.6%減にとどまって おり、新聞広告の落ち込みの大きさがうかがえる。 このような経営環境の悪化を受けて、朝日・毎日・産経の3社が、08年9月中間期(08年4月~9月)の 決算で、連結・単体ベースともに営業赤字を計上している。 河内孝さんプロフィール かわち・たかし ジャーナリスト。1944年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞政治部、 ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。 現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら 慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。

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